潮目が変わってきた?企業の「陰謀論」への対応
世界経済フォーラム(WEF)は、今年1月に発表した「グローバルリスク報告書2024年版」において、今後2年間で国際社会に最も深刻な影響を与えるリスクとして「誤報と偽情報」を挙げました。米大統領選など世界各国で大型選挙が行われる中、AIによる捏造コンテンツの拡散が新たに選出された政府の正統性を揺るがせ、結果として暴力やテロなどを煽る可能性があると危惧しています。
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こうした政治と強い結びつきがあるのが「陰謀論」です。
近年、SNS上ではさまざまな陰謀論に基づいた疑わしい情報が散見されます。
・食品→添加物等による健康被害(人口削減計画)
・金融→銀行の倒産、金融システムのリセット
・医療→ワクチン接種による薬害、製薬会社の利権
・農業→遺伝子組み換え作物による農業支配
など・・・
これらはおおよそ飛躍した理論で語られる傾向があるため、一般的には「誤・偽情報である」と判断される場合が多く、また企業も静観する場合がほとんどです。
しかし今年3月、陰謀論に基づく偽情報や憶測に企業などが公式に否定する(反論する)という下記のような事例が国内外で立て続けに起こりました。
陰謀論に基づく偽情報や憶測に企業などが公式に否定した事例
福岡銀行、SNSで偽情報が拡散 警察に被害相談
日産化学 農薬の誤情報拡散に法的措置 米国で頻発「ラウンドアップ訴訟」日本でも…「毅然とした対処を」
“チャールズ国王死亡” 偽情報が拡散 英大使館が否定の声明
「心も体も治療に集中することで日々強く…」キャサリン妃、がん公表の裏で“影武者説”や“陰謀論”
これらの中でも福岡銀行、日産化学の事例に関しては、偽情報の拡散規模はそれほど大きくなく、また懐疑的な見方をする人の方が多い状況でした。
おそらく静観していたとしてもクライシスに発展する可能性は低かったと思われますが、反論を行った企業の対応を見ると、「静観から反論へ」というような対応の”潮目が変わってきた”と言えるかもしれません。
今回は、世界的な選挙イヤーにともない活発化するであろう「陰謀論に基づく誤・偽情報」に企業が直面した時、どのように臨めばよいかを、福岡銀行と日産化学の事例から考察してみたいと思います。
企業の「反論」に関する分析
以下は、2社に関する偽情報が発生した時点からおよそ5日間の時系列グラフです。
このグラフからは、次のことが見て取れます。
・2社ともに誤情報自体の拡散はそれほど大きくはない。
・それよりも各社が公式に否定(反論)したことに対する反響の方が大きい。
特に福岡銀行においては、複数のメディアが報じたこともあり、「取り付け騒ぎはデマ」という”正しい情報”が大きく拡散される結果となりました。
次に、反論を行なった2社への論調を見てみます。
以下は、2社が公式Xで行なった反論投稿に寄せられたリプライと引用ポストにおいて、出現数の多い単語(動詞・形容詞)をランキング化したものです。
この結果からは、企業に毅然とした対応を求める声や、そうした対応を支持する声が多いことが読み取れます。
以上のことから、
・反論したことが注目された結果、正しい情報が周知されることに繋がった
・偽情報に対しては、企業に毅然とした態度で対応することが望まれている
ということが言えると考えます。
ただし、反論するにあたっては「根拠」を示す必要があります。
福岡銀行は公開されている決算情報などが「経営・資金繰りに問題は無い」といった反論の裏付けになっており、日産化学においては、製品について科学的根拠に基づいた情報発信をSNSやHP上で行なっています。
反論をする場合の注意点などは、過去のコラムで詳しく解説しておりますので、是非あわせてご覧ください。
「非がない炎上」について(1)~リスクマネージメントコラム~
まとめ
一般的にはあまり信じられていない陰謀論に反論することは「過剰反応ではないだろうか?」と躊躇することも多いと思います。
しかし、誤解や誤認識によって消費者に不利益が生じたり、企業やブランドのイメージが低下したりすると判断される場合、毅然とした態度を示す(反論する)ことは、ステークホルダー(利害関係者)を安心させ、信用を得ることにもつながります。
拡散件数などの数値は判断基準の一つではありますが、それだけに依らず、企業にとって「”守るべきもの”が侵される危険性はあるか」というような視点も判断基準に加えて対応していくことがこれからは重要になると考えます。
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